欧州共同体商標の費用と戦略的活用法
日本では、欧州特許と比べあまり知名度、活用度の高くはない共同体商標ですが、昨今急増する模倣品の税関での差し止めは、92%が共同体商標権(72%)、欧州各国商標権(約20%)と、その他、特許権等となっており、欧州税関当局は商標権の存在に大いに依存しています。
確かに、製品を分解して特許権に抵触する技術が利用されている、と税関が製品の流通現場で発見するのは難しいですね。 欧州共同体商標は、加盟国全域をカバーできるお得な制度です。世界のGDPの三分の一は欧州であり、日本と同じ、もしくはそれ以上に商品・サービスの“ブランド力”、“ブランディング”が重要なエリアです。特許も勿論重要ですが、商標を戦略的に活用することで事業戦略をより優位に進めることができます。
なお、日本の商標制度との最も大きな違いの一つとして、商標の絶対的識別力については審査されますが、商標の相対的識別力、つまり先行商標との関係については審査されません。 また従前法制度では、調査の対象とはなり、その調査結果が出願人と先行商標の保有者には通知されていましたが、この調査報告の制度も2016年施行の「共同体商標に関する理事会規則 2009年2月26日No.207/2009」及び「2008年10月22日付け欧州議会および欧州理事会の指令2008/95/EC」により撤廃されることとなります。
(参考プレスリリース)http://www.inta.org/Advocacy/Documents/2015/Council%20Compromise_REGULATION_%208JUN2015.pdf
しかし、同一もしくは類似の他人の先行商標が存在すると、異議理由、無効理由を有したまま登録されてしまうこととなります。また、自己の登録商標を使用すると、他人の商標権を利用、抵触するということにもなりかねません。
こうした相違から出願前、特に、自社商標の使用前には、事前の調査は欠かせません。この相違を知らずに、・全く調査しないでいざ異議申立を提起されると、弁護士を使った商標権者との交渉(もしくは出願人と権利者同士が直接交渉)、異議申立の応答費用と、余計に手間と費用とがかかってしまいます。
また、無事に登録されたので有効と思いきや、自社の登録商標を使用していたら、ある日突然、欧州の弁護士や競合他社から商標権侵害の警告書が届く、といった恐ろしいことになりかねません。 このため、低額で良心的な現地代理人に登録商標の調査(モニタリング)を依頼するか、出願人自身もしくは日本の代理人が事前にある程度、欧州圏内に存在する登録商標を調査しておくことをお勧めします。
以下、出願から登録、更新までに発生する主な費用をご紹介します。
【庁手数料】※別途、代理人費用が発生します
(改正前)・3区分まで:900EUR
・4区分以上:各区分毎にさらに150EUR
(改正後)
1出願1区分 850EUR
2区分目の追加費用 50EUR
3区分目以降1区分につき 150EUR
出願、及び登録費用は、3区分を指定するときは逆に少し高くなりました。
【調査・モニタリング】(庁費用・手続) ・共同体商標の調査報告制度は廃止されますが、国別調査は存続します。ただ、共同体商標ではなく各国商標との関係の調査には、リクエストが必要で、調査対象国もチェコ共和国、デンマーク、ギリシャ、リトアニア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの七カ国(全指定)と限られています。費用は【84EUR】です。ドイツやフランス等は国毎調査の対象になっていないので、例えば、ドイツ特許商標庁に登録された先行商標は調査されません。 ・機械的調査のため、代理人による調査と比べると調査結果の精度は劣る傾向にあります。 (現地代理人費用)例えば、先行の共同体商標の同一性調査は、約1000EUR、類似性調査は約4000~5000EUR、先行のドイツ商標の同一性調査は約200EUR,類似性調査は約500EURとなっており、なかなか高額です。
【更新手数料】(OHIM庁費用)
(改正前)
・3区分まで:1350EUR
・4区分以上:各区分毎にさらに400EUR
(改正後)
1商標登録1区分につき850EUR
2区分目の追加費用が50EUR
3区分目以降1区分につき150EUR