欧州・ドイツの特許事務所での日本弁理士資格の評価と位置付け、と海外で働くということ
欧州は、各国によって相違はあるものの、
基本的に『階級社会』+『資格社会』+『学歴社会』
です。
『学歴社会』
学歴とは、学校ブランドというよりも、博士、修士、学士、他といった分類です。
メルケル首相もEPO長官も、現在では殆どのEPO審査官も、博士号を有しています。
理由の一つに、博士号の取得過程でプロジェクトを任されたり、マネジメント能力も問われることが多いので、
専門分野における卓越した知識と管理能力とを示す指標になるからです。
・ホテルの予約にも、いちいちDr.かどうか入力する覧があったり、
・アパートにもDr.と記載されていたり、
・奥様にはミセスDr.との称号が付与されたりと、
色んな局面で差別化されています。
一方、学費は基本的に無料で、医学部ですら、年間数万~数十万といった低額料金なので、
費用面では日本よりも圧倒的に公平です。
私も家庭の事情で14のときに思いっきり進路変更せざるを得なかったので、その辺りはドイツの方が教育の平等は高い税金と引き換えに担保されています。
(こうした経緯から、仮に私の子供が親に似ずに学才に恵まれた場合、
・ドイツでは“学費略無料”の医学部に進んで医療発展の道に進んでほしいなと、
・逆に、日本では給料が支給されその後、キャリア官僚としての道が約束されている国土交通省管轄の気象大学校に進んで災害大国の日本で災害被害を減らすよう研究の道を進んでほしいなと、
独身の身ながら勝手に妄想設計しています。)
『資格社会』
資格社会は学歴社会と表裏一体です。
それは、ドイツ弁理士にしても、10年以上の実務経験がある場合を除き、
工学士以上がドイツ弁理士を目指す教育プログラムの要件とされるため、
そもそもドイツ弁理士=大学工学部卒
ということを示すからです。
大学工学部卒を卒業していないと、特許事務所に入所すること自体難しいため、
実質、工学部で学んでいないものがドイツ弁理士を目指すのは非常に困難です。
同様に、欧州弁理士、フランス弁理士の場合も、
好ましくは工学修士以上でなければ、入口で可能性が閉ざされます。
日本と同様、医師、税理士等、色々な国家資格が存在しますが、
日本以上に、該当する国家資格を取得していなければその業務に関与することができないのが現状です。
かえって日本弁理士は、現在は外国人でも中学校卒業でも受験ができます。
しかし、法学部を卒業したあとに、莫大な費用と時間とを費やして頑張って勉強して試験に合格しても、
理系のバックグラウンドがなければ仕事を見つけるのは非常に難しいです。
仮に、特許事務所で仕事が見つかってもその後には、理科大の夜間に通う、
もしくは法科大学院に行って弁護士になる、等を選択される方が多いので、
それくらいであれば最初から理系の学位を必須にする欧米スタイルの方が合理的で、
弁理士試験に合格した後の苦労も少なくてよいのかもしれません。
『階級社会』
階級制度は、昔の家系等によって形成されていたようですが、
現在は、国籍、並びに、上記資格及び学位とによって形成されています。
あと、影の部分を上げると、
移民等がドイツに夢を描いてやってきますが、
掃除等の仕事しかなく全く同じ仕事内容でもドイツ人よりも待遇処遇ともに低いのが通常です。
一方、従業員レベルはドイツ国籍が多いものの、管理職は全てドイツ国籍+男性
といった側面も存在し、将来性を懸念し、母国に帰国する人も多いようです。
米国では日本人でもパートナーまで上り詰めた弁理士が数多く存在しますが、
欧州圏内では、現段階ゼロなため、
米国の方がまだ実力主義の気がします。
本題の『欧州での日本弁理士資格の評価と位置付け』について
弁理士(ドイツ語では特許弁護士)、という職業の社会的地位は非常に高く、
日本の弁護士かそれ以上ということを肌で感じます。
しかし、日本弁理士資格に対する評価は、
日本と同じく、事務所・企業によるというのが実際です。
感触として、
(1)日本弁理士=ドイツ弁理士、欧州弁理士と同等かそれ以上、
(2)あくまで海外の国家資格なので無資格に等しい
といった両極端な評価が存在しますが、(1)の方が多いように感じます。
また、これらの評価に応じて、待遇も1.5~2倍とまるで事務所毎に違いますし、
レターや事務所の看板に名前を掲載するか掲載しないか、といった形式的な違いも出てきます。
日本では、求人の応募枠のあるところに応募するというのが慣行ですが、
ドイツ、欧州では、求人の応募枠のあるところに応募するは勿論、
求人広告を出していないところに応募することで職を得ることも可能です。
求人広告を出していないにも関わらず採用を検討する事務所は、
その積極性を評価したり、柔軟性を評価したりする傾向にありますし、
他に応募するライバルも少ないです。
このため、求人広告を出していない事務所であっても、
各事務所の特性を調べ、自身の強みとマッチする事務所に応募することで、
仕事を見つける可能性は高まってくると思います。
海外で働くことが夢、というだけではなく、
その後の仕事内容や自身に対する評価や処遇、キャリアアップも踏まえて勤務先を選んだ方が、より満足度の高い仕事に就ける可能性も高まりますし、再度転職する負担も抑えることができます。
なお、私は自分の中で、
・海外で働くことはすごい、
・あれだけグローバル進出と日本企業が謳っているので、海外しかも現地ローファームでの経験があれば、仮に帰国することになっても日本企業・事務所からの評価も断然高まる、
と勝手に妄想していました。
しかしながら、よほどグローバル化を経営戦略として掲げ、
外部からの人材登用に積極的な企業でなければ、海外の現地企業・事務所での勤務が長くなればなるほどむしろデメリットにもなりかねるというのもまた現実です。
実際、或る知人は、オーストラリアの名門大学で博士号を取得し、
別の知人は米国の医科大学で学位を取得したにもかかわらず、
日本では製薬会社の派遣仕事(翻訳業務)しか見つからなかったとのことでした。
若者の海外離れ、留学者数減少等が叫ばれていますが、それを評価する受け皿がなくむしろ費用とリスクというデメリットが存在するのであれば、大多数にとっ ては当然の結果であり、それを見越した選択をする若者たちの洞察を評価してもいいのかと思います。海外勤務するにしても、現地企業従業員と駐在との間でも 費用面、バックアップ、保証といった面で大きな格差が存在するので、『クライアントとしてではなく、現地企業で一従業員として容赦なく鍛錬してもらいたい』といったような私の事例でなければ、まずは駐在での海外赴任を考えるのも手です。
以上、各方面から分析してみましたが、
自分で思っている評価と、他者からの評価とが一致するとも限らず、
主観評価よりも客観評価の方が低い場合、逆に、客観評価の方が圧倒的に高い場合もあり得るので、
主観評価と客観評価とを整合しつつ、将来設計を検討することが非常に重要です。