欧州審査基準改訂2014 H部 IV章 2.3 と根拠審決の解析 ~補正要件に影響する改訂事項~
~審査基準 H部 IV章 2.3 ~
- 123条(2)の下では、当業者に暗示されている事項を含めて考慮しても、出願された特許明細書に記載されている内容から直接かつ一義的に導き出すことのできない発明の要旨を追加することは認められない。なお、開示事項は、言語で表現されている必要はない(参照T 667/08)
(改訂・追加)
- 補正された請求項が123条(2)を満たしているかを評価する際には、出願書類が当業者に対して真に開示している事項に、焦点が当てられなければならない
- 特に、審査官は、出願時の請求項の構成に偏って焦点を当てることで、出願の全体から当業者に直接的かつ一義的に得られる事項を毀損することを避けなければならない
⇒重要審決 T2619/11を反映
上記改訂審査基準は、T2619/11を理解しなければ意図が難しい内容ですが、
なぜかT2619/11が根拠であることは審査基準中には開示されていません。
以下、このT2619/11について解説、解析致します。
『審決T2619/11 (審決日 2013年2月25日)』
- 審決全文へのリンク: http://www.epo.org/law-practice/case-law-appeals/pdf/t112619eu1.pdf
- 対象特許の日本ファミリー文献 (リンク付): JP2004534241(A)
- 審決概要:
–請求項1は、当該請求項1のみに従属する請求項6が限定付加されることにより補正
–審査部は、補正前の請求項6と各請求項2-4との組み合わせの形態が、出願書類から直接かつ一義的に導き出すことができず123(2)条に違反する旨主張
–審査部は、補正後の請求項1(1+6)に従属する各請求項2-4を削除するように要請
–出願人は、補正後の請求項1(1+6)に従属する各請求項2-4との組み合わせの形態が実施形態等の内容から直接かつ一義的に導き出すことができる旨主張
–審判部は、出願人の主張を認容
【重要審決T2619/11分析 Part H IV 2.3改訂に反映された審決】
【概要】
出願時の請求項:
[請求項1]: 前記管は、少なくともその長さ方向の大部分に沿ってテーパ状であり、
[請求項2] (請求項1に従属) : 前記管が、前記管の吸気口内径の少なくとも5倍の距離に渡ってその長さ方向にテーパ状に形成されている
[請求項3] (請求項1,2に従属): 前記管の吸気口内径の少なくとも5倍~10倍の距離に渡ってその長さ方向にテーパ状に形成されている
[請求項4 ](請求項1,2,3に従属): 前記管が前記排気口へ向かって延びる並行壁に囲まれた部分を有し、前記管のテーパ部と前記並行壁に囲まれた部分とが滑らかに一体化されている
・審査官の認定要素(Ⅰ)
請求項6(請求項1に従属) : 前記管が、その略全長に渡ってテーパ状に形成されている
・審査官の認定要素(Ⅱ)
6頁2-6行:(審査官の纏め)管25は、その長さ方向の大部分、全体に亘ってテーパ状に形成されている
・審査官の認定要素(Ⅲ)
【 請求項の構成 】
(1) 審査段階
⇒補正前の元請求項6は元請求項1のみに従属
(2) 補正内容
⇒補正による技術的事項の新規組合せ請求項2,3,4は、新規事項に該当するとして削除要請
(3) EP審査官の観点
元請求項のクレーム構造及び元請求項4,6はそれぞれ代替手段であるとして、2つの独立請求項が必要
【審査部の認定内容】
・審査部による元請求項6及び補正後の請求項1の文言解釈内容
(出願人の応答)
元請求項6の技術的特徴を、請求項1に限定付加
補正後の請求項1:"前記管(25)は、その略全長に渡ってテーパ状に形成されている"
【審査官の異論の趣旨】
-審査官の認定要素(Ⅰ),(Ⅱ),(Ⅲ) はそれぞれ別個の代替手段(組み合わせ不可)
-明細書6頁2-6行の記載は、 "略全長に渡って:substantially its whole length(元請求項6) "よりも"大部分に沿って:entire length-(元請求項1)" を意図したものである
-元請求項6は、個別に開示された実施形態というよりも、実現可能性を示唆したものでしかない(実証はされていないが、~できるであろう)
- 出願時のクレーム構造は、元の請求項6と元の請求項2,3もしくは4との組み合わせを開示していない
よって、補正後の請求項1(元1+6)に従属する補正後の請求項2,3,4は、123(2)条に違反することから削除されるべきである
【審判部の認定内容】
図3の管25において、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ部27の形成範囲をさらに拡張し、その末端に並行面に囲まれた狭部を近接させた構成とすることは、明細書の記載から直接かつ一義的に当業者が導き出すことができる
⇒
補正後の請求項1と、請求項2~4との組み合わせをサポートする以下の形態の管も、当業者であれば明細書の記載から直接かつ一義的に導き出すことができる
【審判部の認定】
-L2 は、少なくともL1の5倍の長さで在り得る (=請求項 2)
-L2 は、少なくともL1の5~10倍の長さで在り得る (=請求項 3)
-並行面に囲まれた狭部29を備え得る (=請求項 4)
-管25は、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ状に形成されている (=元の請求項6)
根拠となる明細書の記載:
管25は図2の管10の部分22と類似の並行面に囲まれた狭部29を有する。実証はされていないが、管25内部におけるサンプルのエアゾールキャリアガスのフローがその排気口39で略層流となるように、排気口端39のテーパを並行面に囲まれた狭部29に近づければ、おそらくテーパ部27を管25の全長に渡って延ばすことができるであろう
- 2.1節:本件審査は、請求項の構成(クレーム構造)に不均衡に焦点を置き、当業者に対する明細書の記載事項が判断されている
この結果、請求項に係る発明が、組み合わせ不可能な三つの代替手段に係る発明であると判断された
- 2.5節: -"entire(明細書6(特徴Ⅲ))"及び "whole"(元請求項6(特徴Ⅱ)) は事実上、同義である
- "substantially"(”略”、”実質的に”、”大体”) の文言は、厳格かつ正確な境界を緩和させるために、実務上、請求項の記載に頻繁に用いられる
- 2.6節:審判部は、第三者による従属請求項の構成に基づく理解に際し、言語学者や論理学者よりも技術専門家であることを意識している
- 2.8節:以上より、図3の管25において、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ部27の形成範囲をさらに拡張し、その末端に並行面に囲まれた狭部を近接させた構成とすることは、明細書の記載から直接かつ一義的に当業者が導き出すことができる
- 2.9節:元請求項6の"substantiallythe whole length (その略全長に渡って)"は、 一実施形態の一バリエーションであることから、元請求項1の"atleast a substantial portion(少なくともその長さ方向の大部分に沿って)"に含まれるとともに、課題解決のための代替手段ではない
【 審判部認定結果の分析】
-明細書の記載は、補正後の各請求項をサポート可能な以下の三タイプのモデルを直接かつ一義的に導き得る
-以下の(1)~(3)のいずれのタイプのテーパ部の形態も、元の請求項1の”少なくともその長さ方向の大部分に沿ってテーパ状である” の文言に包含され得る
(1)管25=テーパ部27+狭部29
(2)管25 = テーパ部27
(3)管25 = 管25の”略”全体の長さを有するテーパ部27+狭部29
-言語学者、論理学者の視点から請求項の構成に基づき導き出した発明の趣旨(審査部の審査結果)
⇒a1,a2,a3 はそれぞれ、組み合わせ不可能な代替手段
- 当業者が明細書の記載を勘案して、明細書の記載から直接かつ一義的に導き出せる発明の趣旨(審判部の認定)
【 優先権手続きへの影響と応用】