焼き付け刃ではない仕事、商売をする
『そんな焼き付け刃の誤魔化しの商売をしていたら、すぐにダメになりますよ』
以前の仕事内容を説明したときに、或る敏腕経営者に言われた一言です。
当時は、今まで英語だったものを日本語で行うということを主な仕事にしなければいけなかったので、言語をすり替えただけのサービスでは直ぐにクライアントに見抜かれるということでした。
例えば、私のように日本人がドイツのローファームで働いている場合、
窓口役と実務役との二通りのパターンがあり得ます。
(1)窓口役を務めるのであれば、スターライン五つ星の全日空に負けないくらいの日本人ならではの気遣い、クレーム対応、経験豊富な所内代理人をうまくマネジメントしてニーズに合った最大・最適出力のアウトプットの管理、痒い所に手が届く真心こもった真摯なサービスを提供しなければ、
窓口役として日本語で対応可能というだけでは、クライアントが英語でのコミュニケーションを望むようになったり、競合他所が日本人や日本語の堪能なドイツ人等を採用することによって、直ぐに競合他所に追い付かれてしまいます。
逆に、採用側も、言語だけではなく、こうした日本人特有の強み、気遣い等を評価しなければ、日本語の話せる同じ日本人だから、というスタンスでは優秀な人材を確保できないか定着しません。
また、このようなハイパフォーマンスが提供できれば、実務を全く担当しない窓口役であっても、クライアントから信頼されるキーパーソンになることは可能です。
この点は過去二年間に学ぶことができました。
(2)実務役を務めるのであれば、経験豊富で母国語で勝負している現地代理人と肩を並べることになりますが、日欧両方の実務を知っているからこそ見えてくる差異もあります。日々の業務では、『もっと当時からこの点を明確に記載しておけばこのような拒絶理由は発行されず、費用も時間も節約でき、さらに広い権利範囲を維持できたのに!』と結果論ではありますが、そう思うこともあります。
こうした経験値を日々の業務を通じて上げていくことで、
『欧州移行を見据えた日本特許明細書の作法』
といった現地代理人には提案できないプレゼンテーションを提供できたり、
クライアントに対して改善点をフィードバックできるのも、日欧両方の実務を知っているからこそです。
この点は、今年から今の事務所で日々特訓させて頂いているので、
取っ掛かり時期だからこそ見えてくる日欧実務の差異を一つ一つ丁寧に寄せ集めたいと思います。
このようにして、欧州に滞在する日本向けの窓口、日本と欧州との実務双方に精通している弁理士というそれぞれのポジションの特異性を最大限に生かすか、
競合が追従し、直ぐに代替可能な仕事をするかは、非常に重要な決定要素です。
追従可能なサービスは、次は価格競争に陥ります。
価格競争に陥ると、
・忙しいのに売り上げが上がらない、
・売り上げが上がらないから優秀な人材も集められない、
・優秀な人材が集まらないので、今以上の付加価値の高いサービスを提供できない、
といった悪循環に陥ってしまいます。
誤魔化しではないサービスを提供することの副次的効果ではありますが、これの悪循環を避けることもできます。
安ければよい、という風潮も過去のもとのなりつつあるようですし、いつの時代も重要な基幹技術は、価格よりも、最高品質で提供することが大事です。クライアントも価格に見合う価値を見出すことができれば、満足してご依頼頂けるように感じます。
『この大事な案件は信頼のできるあの代理人へ』
そう思って頂ける代理人でありたいと思います。
自身の特異性を磨き、独自性を活かしたサービスを提供しなければと思う日々です。