弁理士葉隠れ道~欧州・ドイツ篇~

日本と欧州との懸け橋となるべく、慣れない欧州で七転び八起きしながらも欧州のローファーム(特許法律事務所)で何とか励む日本弁理士の日記です。欧州の現状の紹介や、海外での勤務を夢見る方々の参考になれば幸いです。 <免責事項>本ブログは、管理人である私一個人の見解を記載したものであり、内容について管理人の勤務先が責任を負うものではありません。また本ブログの内容は無保証です。ご利用は自己責任でお願いします。ご理解のほどお願いします。 ご意見等はこちらまでお気軽にどうぞ。minmin70707アットマークyahoo

実務業務の効率化 ~成長軌跡を残すことの重要性~

 

今年からは、慣れない実務経験と未熟な英語力及び知識をもって、出願書類のチェックや中間処理と格闘する毎日です。

この二年間、経営戦略、マーケットリサーチ、渉外、新規開拓に専念してきただけに、弁理士としての実務的なスキルはまだまだ赤ちゃんレベルです。

 

日本特許実務でも外国特許実務でも活用できそうな実務効率化を思いついたのでメモしておきます。現地代理人の業務はタイムチャージ制なので、業務効率の高い現地代理人を選定するというのも一つの大事な基準かと思います。

 

(1)応答案のパターン化とデータベース化

・審査官の指摘事項には、新規性欠如、進歩性欠如、不明確等、色々なパターンがあり、それらの中でも幾つかのパターンが存在します。

・データベース作成に際しては、応答時に鍵となった審査基準や審決も案件毎にメモします。

・映画も拒絶理由も人生も、登場人物は違うものの、スターウォーズもうずまきなるともストーリーのパターンは同じだったりするので、何においても共通パターンを見抜く洞察力は必要です。

 

(2)反論時に根拠となる審査基準や審決のメモ帳を作成する

・例えば、実施形態から抽出した一部の構成要件に基づきクレームを補正する際には、中間的一般化に関しては、審決t090241eu1で、全ての実施形態に共通して用いられる構成要素に基づくクレームの補正が肯定されているので、その旨を下記のようにメモします。

 

【審決t090241eu1+共通要素に基づく補正はOK+案件番号】

 

・この際、日本実務と相反する審査基準や審決等があれば、それもメモしておくと素晴らしい材料になります。日本を発って早二年半、日本の特許実務を忘れつつあるので、覚えているうちにメモしようと思います。。。

 

これで、根拠審決、結果、さらにはそれらに基づく対応を行った案件を直ぐに引っ張り出すことができる最強メモが完成します。

 

パターンでカテゴリ化され関連情報が紐づけされたDBと、

根拠毎にカテゴリ化され関連案件が紐づけされたDBとがあれば、

二つの観点から情報を抽出できるので、まずはこの2パターンがあれば十分だと思います。

 

 

(3)案件毎の記録

各案件に費やした時間や特徴を日限管理や処理予定日とともにメモします。

これは、日本の事務所で管理していたグループ員と自身の進捗把握のために使用していました。

 

ただ、あまりやりすぎるとデータベースを作成することが主業務になってしまい、目的と手段が逆になってしまうので要注意です。

 

(4)集中する、最適な体調で業務に臨む

私は最低週40時間の労働時間を雇用主に提供する雇用契約になっていますが、体調如何によって時間当たりのアウトプットのミス発生頻度も大きく相違します。

通勤電車の出発時間が一時間ごとで往復3~4時間なので、現在はあまり残業ができないこともあり、業務中は最大限集中するようにしています。『集中しよう!』と思ってもそう簡単に集中できるものでもないので、お尻を強制的に決めて、『既定の時間内にこの案件、作業を終わらせる』、という環境を作った方が集中力は高まります。思い返せば弁理士の受験生時代、30万円払った基礎講座に毎日通うため、業務効率の向上に集中した結果、単位時間当たりの売り上げが所内平均の2.5倍になりました(残業が減ったのでだいぶ給料は減りましたが、、、)。

 

 

業務に慣れないころは、慣れないがために膨大な時間のかかる業務と並行してDBやテンプレートを作成するのは大変ですが、むしろ、業務に慣れないからこそ気付く事務所の長短や日本特許実務との相違事項があります。

ですので、初期段階に時間を投資して、日々学んだ事項をこまめに記録することで、その後の業務効率も成長速度も大きく変わってくることと思います。

 

また、こうした成長の軌跡を残しておくことで、次の世代を教育する際には、上記データベースを集合知として、職人稼業の弁理士業のマニュアル化を行うことができ、品質管理や経営効率の向上に繋がると思います。

 

新しい事務所はまだ入所三か月半でいろんなことが追い付いていませんが、後進のためにも成長の軌跡をコツコツと作成して形として残したいと思います。

欧州審査基準改訂2014  H部 IV章 2.3 と根拠審決の解析 ~補正要件に影響する改訂事項~

~審査基準  H部 IV章 2.3 ~  

  • 123条(2)の下では、当業者に暗示されている事項を含めて考慮しても、出願された特許明細書に記載されている内容から直接かつ一義的に導き出すことのできない発明の要旨を追加することは認められない。なお、開示事項は、言語で表現されている必要はない(参照T 667/08)

(改訂・追加)

  • 正された請求項が123条(2)を満たしているかを評価する際には、出願書類が当業者に対して真に開示している事に、焦点が当てられなければならな
  • に、審査官は、出願時の請求項の構に偏って焦点を当てることで、出願の全体から当業者に直接的かつ一義的に得られる事項を毀損することを避けなければならな

 

⇒重要審決 T2619/11を反映

  上記改訂審査基準は、T2619/11を理解しなければ意図が難しい内容ですが、

なぜかT2619/11が根拠であることは審査基準中には開示されていません。

以下、このT2619/11について解説、解析致します。

 

『審決T2619/11 (審決日 2013年2月25日)』

–請求項1は、当該請求項1のみに従属する請求項6が限定付加されることにより補正

–審査部は、補正前の請求項6と各請求項2-4との組み合わせの形態が、出願書類から直接かつ一義的に導き出すことができず123(2)条に違反する旨主張

–審査部は、補正後の請求項1(1+6)に従属する各請求項2-4を削除するように要請

–出願人は、補正後の請求項1(1+6)に従属する各請求項2-4との組み合わせの形態が実施形態等の内容から直接かつ一義的に導き出すことができる旨主張

–審判部は、出願人の主張を認容

 

重要審決T2619/11分析  Part H IV 2.3改訂に反映された審決】 

 【概要】

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出願時の請求項:

[請求項1]: 前記管は、少なくともその長さ方向の大部分に沿ってテーパ状であり、

[請求項2] (請求項1に従属) : 前記管が、前記管の吸気口内径の少なくとも5倍の距離に渡ってその長さ方向にテーパ状に形成されている

[請求項3] (請求項1,2に従属): 前記管の吸気口内径の少なくとも5倍~10倍の距離に渡ってその長さ方向にテーパ状に形成されている

[請求項4 ](請求項1,2,3に従属): 前記管が前記排気口へ向かって延びる並行壁に囲まれた部分を有し、前記管のテーパ部と前記並行壁に囲まれた部分とが滑らかに一体化されている

 

 ・審査官の認定要素(Ⅰ)

請求項6(請求項1に従属) : 前記管が、その略全長に渡ってテーパ状に形成されている

・審査官の認定要素(Ⅱ)

6頁2-6行:(審査官の纏め)管25は、その長さ方向の大部分、全体に亘ってテーパ状に形成されている

・審査官の認定要素(Ⅲ)

 

  請求項の構成

(1) 審査段階

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⇒補正前の元請求項6は元請求項1のみに従属

 

(2) 補正内容

 

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⇒補正による技術的事項の新規組合せ請求項2,3,4は、新規事項に該当するとして削除要請

 

(3) EP審査官の観点

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元請求項のクレーム構造及び元請求項4,6はそれぞれ代替手段であるとして、2つの独立請求項が必要

 

【審査部の認定内容】

・審査部による元請求項6及び補正後の請求項1の文言解釈内容

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(出願人の応答)

元請求項6の技術的特徴を、請求項1に限定付加

補正後の請求項1:"前記管(25)は、その略全長に渡ってテーパ状に形成されている"

 

【審査官の異論の趣旨】

  -審査官の認定要素(Ⅰ),(Ⅱ),(Ⅲ) はそれぞれ別個の代替手段(組み合わせ不可)

  -明細書6頁2-6行の記載は、 "略全長に渡って:substantially its whole length(元請求項6) "よりも"大部分に沿って:entire length-(元請求項1)" を意図したものである

  -元請求項6は、個別に開示された実施形態というよりも、実現可能性を示唆したものでしかない(実証はされていないが、~できるであろう)

  - 出願時のクレーム構造は、元の請求項6と元の請求項2,3もしくは4との組み合わせを開示していない

 

よって、補正後の請求項1(元1+6)に従属する補正後の請求項2,3,4は、123(2)条に違反することから削除されるべきである

 

審判部の認定内容

図3の管25において、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ部27の形成範囲をさらに拡張し、その末端に並行面に囲まれた狭部を近接させた構成とすることは、明細書の記載から直接かつ一義的に当業者が導き出すことができる

 ⇒

 補正後の請求項1と、請求項24との組み合わせをサポートする以下の形態の管も、当業者であれば明細書の記載から直接かつ一義的に導き出すことができる

 

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審判部の認定

-L2 は、少なくともL1の5倍の長さで在り得る    (=請求項 2)

-L2 は、少なくともL1の5~10倍の長さで在り得る (=請求項 3)

-並行面に囲まれた狭部29を備え得る        (=請求項 4)

-管25は、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ状に形成されている (=元の請求項6)

根拠となる明細書の記載:

 

管25は図2の管10の部分22と類似の並行面に囲まれた狭部29を有する。実証はされていないが、管25内部におけるサンプルのエアゾールキャリアガスのフローがその排気口39で略層流となるように、排気口端39のテーパを並行面に囲まれた狭部29に近づければ、おそらくテーパ部27を管25の全長に渡って延ばすことができるであろう

 

  • 2.1節:本件審査は、請求項の構成(クレーム構造)に不均衡に焦点を置き、当業者に対する明細書の記載事項が判断されている

  この結果、請求項に係る発明が、組み合わせ不可能な三つの代替手段に係る発明であると判断された

  • 2.5節: -"entire(明細書6(特徴))"及び "whole"(元請求項6(特徴)) は事実上、同義である

                   - "substantially"(”略”、実質的”、”大体”) の文言は、厳格かつ正確な境界を緩和させるために、実務上、請求項の記載に頻繁に用いられる

  • 2.6節:審判部は、第三者による従属請求項の構成に基づく理解に際し、言語学者や論理学者よりも技術専門家であることを意識している

 

  • 2.8節:以上より、3の管25において、その長さ方向の略全体に沿ってテーパ部27の形成範囲をさらに拡張し、その末端に並行面に囲まれた狭部を近接させた構成とすることは、明細書の記載から直接かつ一義的に当業者が導き出すことができる

 

  • 2.9節:元請求項6の"substantiallythe whole length (その略全長に渡って)"は、 一実施形態の一バリエーションであることから、元請求項1の"atleast a substantial portion少なくともその長さ方向の大部分に沿って"に含まれるとともに、課題解決のための代替手段ではない

 

  審判部認定結果の分析

-明細書の記載は、補正後の各請求項をサポート可能な以下の三タイプのモデルを直接かつ一義的に導き得る

-以下の(1)~(3)のいずれのタイプのテーパ部の形態も、元の請求項1の少なくともその長さ方向の大部分に沿ってテーパ状である” の文言に包含され得る

 

(1)管25=テーパ部27+狭部29

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(2)管25 = テーパ部27 

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(3)管25 = 管25の”略”全体の長さを有するテーパ部27+狭部29

 

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-言語学者、論理学者の視点から請求項の構成に基づき導き出した発明の趣旨(審査部の審査結果)

⇒a1,a2,a3 はそれぞれ、組み合わせ不可能な代替手段

 

 

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- 当業者が明細書の記載を勘案して、明細書の記載から直接かつ一義的に導き出せる発明の趣旨(審判部の認定)

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  優先権手続きへの影響と応用

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欧州の訴訟事情 ~高くても厳しくても遅くてもやはり右肩上がりな欧州特許庁とその背景~

【 世界の特許訴訟動向】 

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【 EU主要国訴訟動向  ~提訴側及び被提訴側の分野分布~】

 

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ドイツ訴訟動向;

1)機械分野を主要分野31とした

電気電子、化学・製薬の三分野での訴訟が活発

2)訴訟配分は出願配分に概ね比例

3)電気電子分野では、スマートフォン関連の訴訟が増加

 

【EU主要国訴訟動向 ~判決結果解析~】

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【欧州圏外から流入する模倣品】

 

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激増する欧州圏内の模倣品…2005年;27千弱2012年;約9万件(僅か7年で三倍以上に増加)

–劣悪品のため特許では無理でも、意匠、商標で抑える

電子部品、機械部品の模倣品対策でも、意匠による保護が重要になりつつある

 

増加する模倣事例

・商標類似

・外観同一、類似

・機能劣悪

→商標権・意匠権での抑制

 

【EU主要国訴訟動向 ~判決結果解析~】

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(1)アメリカでは、特許権侵害で訴えを提起され、高額の賠償金を支払わされるリスクが高い

(2)ドイツでは、特許権侵害で訴えられるリスク(件数)が米国の約三分の一でありながら、自社特許で権利行使した場合に勝訴できる可能性が高い

(3)ドイツの出願件数は日本の5分の一であるが、訴訟件数は3.5

 →特許当たりの訴訟リスクは日本の20   

 

⇒以上から、

ドイツには低リスクで事業進出しやすく、模倣製品を排除しやすい!

ということが伺えます。

 

【訴訟費用】

 

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(費用リスク)

・敗訴当事者から勝訴当事者に対して支払う償還されるべき費用、裁判所費用及び弁護士及び特許弁理士双方に対する法定費用を含む

・敗訴当事者の弁護士費用は含まれていない

・実際には,費用の合意が一般的であることから、弁護士の費用は法定額から除外し得る裁判所が任命する技術鑑定人の費用、出張旅費、翻訳費用等の追加費用も発生し得る

 

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以上、訴訟動向から欧州知財を解析してみましたが、

日本と比べ、攻めるため、交渉のための特許権、知的財産権という印象が強いです。

 

いつ海外進出することになるかも、

自社製品が欧州等の大規模市場で模倣されることになるかもわかりませんので、

最初は国内だけでいいと思っていても、経営サイドとしては、

『アイデアの段階から世界を見据える』

 

弁理士サイドとしては、

『世界で通じる権利を最初から狙う』

スタンスがますます重要になってくるかと思います。

 

 

欧州市場の重要性 ~高くても厳しくても遅くてもやはり右肩上がりな欧州特許庁とその背景~

 

知財は第四次産業。

よって、インフラ、金融、製造基盤等の条件がそろってはじめて、必要性が増す産業です。先進国ほど出願件数と法制度が安定していることからもうかがえます。

このため、出願件数や出願国としての重要性は経済基盤に比例します。

 

こうした観点から、欧州での出願が今後も重要であることを探ってみたいと思います。

 

【主要国資産の推移】

 

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EUの資本は、2030年にかけて安定して増加する見込み

 

【EUの主要貿易パートナーの推移】

 

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日本;4%⇒3%

(日本側の動向に基づき予測)

欧州市場では日本企業同士の競争ではなくロシア、中国、アメリカの製品との競争

⇒日本市場は”競争レベルが高すぎるため各国企業の参入余地がない。

 

日本市場で研鑽された日本企業の参入余地は高い”(某欧米企業コメント)

 

【世界のGDPに対する貢献度も世界首位】

 

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10年単位でみる世界のGDPに対する貢献度

(外国製品の購入等)

2020年代、2030年代も首位を維持

⇒EU圏外の製品に対する購買力首位

 

【人口と年齢の世界地図】

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欧州市場の特徴;

(1)高齢層・裕福層・成熟企業が多い

⇒高需要

・医療機器、健康製品(眼鏡等)

・製薬

・紙おむつ

・奢侈品(自動車、電化製品)

・工場用品(中間部材)

 

(2)人件費高額

⇒自動化技術(産業用ロボット等)の需要大

 

【中国・米国との貿易量の推移】

 

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中国からの輸入量が15年の間に1.5倍以上に増加

⇒欧州に流入する一層の模倣品増大の可能性 大

 

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【企業研究から分かる特許取得の効果】

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[出典 株式会社OPTiM]

知財活用の成功企業:

株式会社OPTIM

-佐賀大学発のベンチャー企業

・情報通信分野で保有数第9位(1位はNTT)

・特許資産規模を登録件数で割った1件当たりの特許資産規模では、第1位

・社内制度「アイディアキング」

⇒特許を企業資産として上場成功

 

【EU2020プロジェクトの基幹技術と各分野における特許の重要性】

 

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欧州特許の審査促進手法

【欧州特許出願における審査促進一覧】

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簡易な審査促進手法として、PACE(programme for accelerated prosecution of European patent applications)があります。

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申請に際して実際に行われる作業は下記の書面のチェックボックスにチェックするだけです。このため、特許査定となったクレームの提出等、手続きが煩雑なPPHと比較すると、現地代理人費用も低額になる傾向になります。

 

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勉強熱心な先生方の多い日本の方が現地代理人よりも情報に敏感な気がしますが、

このPACEの運用が2016年1月1日から改訂されています。

主なポイントは以下の通りです。

 

【根拠】欧州特許庁発行のOfficial Journal November 2015

 

(1)PACEは、調査段階と審査段階のそれぞれにおいて1回だけ認められる

 

(2)一旦請求されたPACEが期間延長の請求等によって解除されると、2度目の請求は認められない

 

(3)すべて出願について一括でPACEを請求すると、数を絞るように要求される(欧州特許庁副長官いわく、韓国や中国の出願人は、“わが社案件は全て早期審査!”といった請求を欧州特許庁にされるようです)

 

(4)審査段階でPACEが継続して有効な場合、出願人が応答してから3か月以内に次の審査に関する通知を行う(努力義務)

 

(5)このほか、PACE以外の審査促進手法として、審査継続の確認である「規則70(2)の通知放棄」、許可予告後に補正が行われた場合の再通知である「規則71(3)の通知放棄」が明記された。

 

『お箸』を保持するための『箸置き』の発明は『お箸』を構成要件としてクレームに含めるべきか ~日本実務との相違~

 

斬新なデザインの箸置きを発明した個人発明家があなたのところにやってきました。

さて、あなたはどのようにこの箸置きを表現して特許にしますか?

 

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こんなクレームを思いつきましたでしょうか?↓↓ 

 

【請求項1】

お箸を保持可能な形状に形成された一対の支持部を備え、

前記支持部の頂点は、当該箸置きに載置されるお箸の先端側に向かって先細りする形状を有し、

ことを特徴とする箸置き。

 

論点は、

・支持部の形状は、お箸を保持可能な形状であり、

・支持部の頂点の先細り方向は、お箸の先端側が分からないと規定できない、

ということです。

 

このような場合、例外はあるものの、

欧州審査基準;【4.14 Definition by reference to use or another entity】 

http://www.epo.org/law-practice/legal-texts/html/guidelines/e/f_iv_4_14.htm

によれば、原則、『お箸』は、箸置きの特徴である支持部の形状や先細り方向を規定するために必要な構成要件としてクレームの構成要件に追加しなければなりません。

少なくとも、上記のようなクレームでは、普段お箸を使わない欧州人の審査官から、

『箸置きの特徴を特定する上でお箸は必須の構成だから、クレームに構成要件として規定しなさい、さもなければこのクレームは不明確です』と言われかねません。

 

箸置きを権利化したいところが、その特徴を表現するためにお箸を乱用すると、

移行国によっては、お箸と箸置きとのセットの権利となってしまい、箸置き単体の流通が直接侵害に該当しない場合、間接侵害での議論となってしまうことも起こりかねません。

 

お箸に頼らずに箸置きの特徴を表現する。

 

これもまた弁理士としての腕の見せ所だと思いますし、

グローバルに通じる箸置き発明の権利化、ひいては、箸置きとお箸の世界中への普及に繋がるはずです!

知的財産権を武器に活躍する企業の取組事例

知的財産権を武器に活躍する企業の取組事例の動画を作成しました

 

知恵と知財でがんばる九州の中小企業8社 ※詳細は別紙(PDF:3MB)参照

  • 株式会社東洋新薬(福岡県)
  • 東洋ステンレス研磨工業株式会社(福岡県)
  • 株式会社フジコー(福岡県)
  • 有限会社坂本石灰工業所(熊本県)
  • 株式会社トライテック(大分県)
  • WASHハウス株式会社(宮崎県)
  • 坂元醸造株式会社(鹿児島県)
  • 松元機工株式会社(鹿児島県)

 

 

こうした知財で元気になる地元産業を一社でも多く創り出すのも、

今後の弁理士に期待されるお仕事です。

 

 

平成28年度知財功労賞 

www.jpo.go.jp

 

これまで大変お世話になった方々が三名も受賞されていました。

いずれも、卓越したリーダーシップと戦略のもとに、幅広いご活躍、私のような若手にも親身に接してご教授くださる方ばかりです。

賞はあくまでも結果としてついてくるものであってそれを追い求めては本末転倒ですが、
受賞者の方々の一つの共通項は斬新かつ大胆なアイデアで企業や後進を牽引され、次の時代を切り開かれるとともに次世代の育成に励まれた方ばかりですので、
私も30年後にはそのような知財人材でありたいと思います。

受賞された皆様、改めておめでとうございます。

 

図面のみに基づくクレーム補正の是非~日本実務との相違~

 

経験上、日本の特許実務では、図面のみに開示された特徴に基づく補正であっても認められる傾向にあります。この点、欧州特許庁はそうは問屋が卸さないとばかりに厳格です。

特に、日本では認められているだけに、『図面には開示されているからいいや』と、重要な特徴や発明の主要な効果に関連する特徴を省いたり、作用のみを説明することは、後々に、

・補正ができない⇒他の構成要素に基づいて発明の主な特徴以外の要素で限定

・限定補正したものの、補正が認められなかった場合、補正で追加した特徴を削除すると『逃れられない罠』に陥り、権利化を断念せざるを得ない、

といった痛い思いをすることになりかねません。

 

 

(1)図面にのみ記載された事項に基づく補正は不可とする根拠

・T1120/05;『 According to the well established jurisprudence of the Boards of Appeal, features may be taken from the drawings if their structure and function are clearly, unmistakably and fully derivable from the drawings (see T 169/83, OJ EPO 1985, 193). It goes without saying that it is not possible to derive a negative or missing feature on its own, i.e. without the context of the other, existing features of the claim. It remains to be decided if a combination of features including the negative feature can be derived or not. 』

・T191/93; 図面にのみ記載された事項に基づく補正は不可とする審決

・審査基準;図面に基づいて補正を行う際に,「図面に特定の特徴を描写している方法が,偶発的なものかもしれないから」,注意を払うべきであるとしている

 

(2)日本の実務と相違

  • H13.3.11(平成9(行ケ)56)
  • “明細書に明示的な記載がなくても、明細書に記載された装置の動作に関する記載内容を図面と併せて理解可能であり、補正事項が当業者に自明な事項であれば、図面のみの記載からでも、特許請求の範囲の補正が認められる。”

 

以上から、特に、発明の本質、課題解決、効果に関する部分には、図面に記載されてあっても、明細書中に構造を明確に記載することが非常に重要であるといえます。

 

この図面の例は、欧州仕様に基づいて日本明細書を執筆(図面の特徴も明細書で明記)すれば大丈夫であったものの、

欧州移行時に困るパターンの一つです。

日本仕様に基づいて日本明細書を執筆(図面に開示されているので割愛)したことによって、 欧州移行時に困るパターンの一つです。

 

この図面の例は、欧州仕様に基づいて日本明細書を執筆(図面の特徴も明細書で明記)すれば大丈夫であったものの、

 

特に、発明の本質、課題解決、効果に関する部分には、図面に記載されてあっても、明細書中に構造を明確に記載することが非常に重要であるといえます。

 

 

焼き付け刃ではない仕事、商売をする

 

『そんな焼き付け刃の誤魔化しの商売をしていたら、すぐにダメになりますよ』

 

以前の仕事内容を説明したときに、或る敏腕経営者に言われた一言です。

当時は、今まで英語だったものを日本語で行うということを主な仕事にしなければいけなかったので、言語をすり替えただけのサービスでは直ぐにクライアントに見抜かれるということでした。

 

例えば、私のように日本人がドイツのローファームで働いている場合、

窓口役と実務役との二通りのパターンがあり得ます。

(1)窓口役を務めるのであれば、スターライン五つ星の全日空に負けないくらいの日本人ならではの気遣い、クレーム対応、経験豊富な所内代理人をうまくマネジメントしてニーズに合った最大・最適出力のアウトプットの管理、痒い所に手が届く真心こもった真摯なサービスを提供しなければ、

窓口役として日本語で対応可能というだけでは、クライアントが英語でのコミュニケーションを望むようになったり、競合他所が日本人や日本語の堪能なドイツ人等を採用することによって、直ぐに競合他所に追い付かれてしまいます。

逆に、採用側も、言語だけではなく、こうした日本人特有の強み、気遣い等を評価しなければ、日本語の話せる同じ日本人だから、というスタンスでは優秀な人材を確保できないか定着しません。

 

また、このようなハイパフォーマンスが提供できれば、実務を全く担当しない窓口役であっても、クライアントから信頼されるキーパーソンになることは可能です。

 

この点は過去二年間に学ぶことができました。

 

(2)実務役を務めるのであれば、経験豊富で母国語で勝負している現地代理人と肩を並べることになりますが、日欧両方の実務を知っているからこそ見えてくる差異もあります。日々の業務では、『もっと当時からこの点を明確に記載しておけばこのような拒絶理由は発行されず、費用も時間も節約でき、さらに広い権利範囲を維持できたのに!』と結果論ではありますが、そう思うこともあります。

 

こうした経験値を日々の業務を通じて上げていくことで、

『欧州移行を見据えた日本特許明細書の作法』

といった現地代理人には提案できないプレゼンテーションを提供できたり、

クライアントに対して改善点をフィードバックできるのも、日欧両方の実務を知っているからこそです。

 

この点は、今年から今の事務所で日々特訓させて頂いているので、

取っ掛かり時期だからこそ見えてくる日欧実務の差異を一つ一つ丁寧に寄せ集めたいと思います。

 

このようにして、欧州に滞在する日本向けの窓口、日本と欧州との実務双方に精通している弁理士というそれぞれのポジションの特異性を最大限に生かすか、

競合が追従し、直ぐに代替可能な仕事をするかは、非常に重要な決定要素です。

 

 

追従可能なサービスは、次は価格競争に陥ります。

価格競争に陥ると、

・忙しいのに売り上げが上がらない、

・売り上げが上がらないから優秀な人材も集められない、

・優秀な人材が集まらないので、今以上の付加価値の高いサービスを提供できない、

といった悪循環に陥ってしまいます。

 

誤魔化しではないサービスを提供することの副次的効果ではありますが、これの悪循環を避けることもできます。

 

安ければよい、という風潮も過去のもとのなりつつあるようですし、いつの時代も重要な基幹技術は、価格よりも、最高品質で提供することが大事です。クライアントも価格に見合う価値を見出すことができれば、満足してご依頼頂けるように感じます。

 

『この大事な案件は信頼のできるあの代理人へ』

 

そう思って頂ける代理人でありたいと思います。

 

自身の特異性を磨き、独自性を活かしたサービスを提供しなければと思う日々です。

 

 

Schliersee に行ってきました

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友人のドイツ弁理士と、フィリピン人の奥様と。日本でPhdを取りに行ったときに出逢ったとのこと。ロマンティックですね。
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お決まりのスウィーツ。
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今日は2つの結婚式がありました。幸多い家庭生活を祈らんばかりです。
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今日はこの町の記念日というところ、至るところでキャンプファイヤーがありました。

こんな箱根みたいな素敵な場所に、ミュンヘン市内から40分ほどで行けるのは、ドイツの魅力の一つです。

シュタンベルグ ご近所旅行

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今日は天気が良かったので、電車で40分のシュタンベルグにいってきました。
一時間以内でこのような自然溢れる湖に来れるのは、ミュンヘンの魅力の一つです。

紅葉日和。
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ニュルンベルグに行ってきました

今日は、クリスマスマーケット発祥の地、ニュルンベルグに行ってきました。
凄い人だかりで驚きましたが、この時期にはぜひともお勧めしたいスポットです。

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工具売り場と思いきや、全てチョコレートできています!!
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レンチにはさみに、ボールスプラインに、、
チョコレートにしかみえません。さすが、技術立国ドイツです!!
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フルーツで出来た人形。さすが、ものづくり大国ドイツです。
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